税制改正大綱
目次
政府与党が、12月10日に令和4年度税制改正大綱をとりまとめた。会社を運営するにあたって、税金にまつわる改正点を確認しておくことはとても重要なことの一つなので、要点を見ておこう。
基本的な考え方
まずは、基本的な考え方だが、岸田内閣のコンセプトは「成長と分配の好循環」と「コロナ後の新しい社会の開拓」による新しい資本主義の実現だ。昨年まで法人実効税率の引き下げなどの対応で企業の荷重負担を減らすことで経済的な競争力を確保しようとしてきた。
ところが、実際には、その負担調整がうまくいったとは言えず、賃金水準は実質的に見て30年以上ほぼ横ばいが現状だ。その一方で、株主還元や内部留保の増加傾向は変わっていない。イノベーションより経費削減や値下げに競争力の源泉を求め続けた結果、縮小均衡が生じ冒険心がなくなった。近年の法人税改革は意図した成果を上げられなかったというわけだ。
個人所得課税
個人所得課税からは住宅税制が制度変更の目玉だ。消費税率引き上げの反動減対策としての借入限度額の上乗せ措置は終了し、住宅性能などに応じた上乗せ措置を講じるようだ。脱炭素社会の実現に向けて省エネルギー住宅の普及を促進する。
おなじみの住宅借入金等を有する場合の所得税額の特別控除について適用期限(2021年12月31日)を25年末まで4年延長する。控除率は住宅借入金残高の0.7%に縮小し、控除期間は13年を原則とし、適用対象者の所得要件を3000万円以下から2000万円以下に下げることとなった。これは、控除率の縮小と減税期間の延長を組み合わせて、中間所得者層を手厚く支援する仕組みをつくり上げたもので、コロナ禍の影響との相関関係に配慮した形だ。
加えて、22~23年入居の場合の借入金残高の限度額は、認定住宅は5,000万円、ZEH(ゼロ・エネルギー・ハウス)水準省エネ住宅は、4,500万円、省エネ基準適合住宅は4,000万円とする。また、24~25年入居の場合は、22~23年入居の場合より限度額を1,000万円(認定住宅は500万円)下げる。中古の場合は一律3,000万円で、控除期間も10年とする。
認定住宅等以外の住宅については、22~23年入居の場合の限度額を3,000万円とする。24~25年入居と中古の場合は、限度額2,000万円で控除期間を10年とする。
資産課税
次に資産課税については、まず、住宅資金の贈与についてだが、直系尊属から贈与を受けた場合の贈与税非課税措置の適用期限(21年12月31日)を2年延長する。非課税限度額は、耐震、省エネまたはバリアフリーの住宅用家屋は1,000万円、これら以外の住宅用家屋は500万円とする。また、受贈者の年齢予見を18歳以上に引き上げる。
次に、土地に関する固定資産税の負担調整措置については、22年度限りの措置として、商業地等の課税標準額を、21年度の課税標準額に22年度の評価額の2.5%(現行5%)を加算した額とする。コロナ禍をはさんだ影響による激変緩和の観点からの調整措置である。
法人課税
法人課税は、コロナ禍の影響大の企業経営に対して大きく配慮した構成だが、アメとムチが混在した政策でもある。積極的な賃上げ等を促す措置として、青色申告法人が22年度から23年度末までの間に開始する事業年度で、継続雇用者の給与等支給額の増加割合が前期比3%以上のとき、対象となる給与支給増加額の15%を税額控除できる。増加割合が上記同様の4%以上であれば税額控除率に10%を加算する。
資本金が10億円以上で常時使用する従業員が1,000人以上の企業は、給与引き上げの往信や取引先との適切な関係構築の方針などをインターネットなどで公表して経済産業相に届出たときのみ措置が適用される。
研究開発税制などについては別途税額控除を適用しない措置の要件も見直す。前事業年度に黒字の企業の場合、(同措置を回避できる)給与増加割合の要件は1%以上にする。
収益拡大にもかかわらず、賃上げにも投資にも消極的な企業には都税特別措置の適用を停止する措置を強化する。
中小企業支援に関して、現行の税制の延長線上での政策に終わった感がある。中小企業における所得拡大促進税制の適用期限を1年延長する。雇用者給与等支給額の増加割合が2.5%以上なら、税額控除率に15%を加算する。教育訓練費の増加割合が10%以上であれば税額控除率に10%を加算する。
また、交際費等の損金不算入制度について、適用期限を2年延長するとともに、中小法人に関わる損金算入の特例の適用期限を2年延長する。
オープンイノベーション促進税制の拡充としては、特別新事業開拓事業者に特定事業活動として出資した場合の課税特例を2年延長する。特別新事業開拓事業者について、赤字企業で売上高にしめる研究開発費の割合が10%以上であれば、設立日以後の期間の要件を現行の10年未満から15年未満に拡充する。対象株式の保有見込み期間の下限を3年とする。
5G投資促進税制については、見直しをしたうえで適用期限を3年延長する。税額控除率は22年4月1日から23年3月31日までに事業の用に供したものは15%、23年4月1日から24年3月31日までの間は9%、24年4月1日から25年3月31日までの間は3%と見直す
その他法人税制に関して、中小企業者等の少額減価償却資産の取得額の損金算入の特例を2年延長する。対象資産から主要な事業ではない貸し付けに用いられる資産を除外する。
また、国庫補助金等で取得した固定資産等の圧縮額の損金算入制度について、対象となる補助金の範囲に、特定半導体生産施設整備等(仮称)に必要な資金に充てる助成金と、産業デジタルトランスフォーメーション(DX)のためのデジタルインフラ整備事業(仮称)等の助成金を加えるとした。
隠蔽仮装行為に基づく申告や、確定申告書を提出していなかった場合には、売上原価の額ならびに費用の額等を損金に算入しない。
消費課税
適格請求書等保存方式(インボイス制度)に関わる見直しについては、事前にも大きく取り沙汰されている点だが、事業者登録について、免税事業者が23年10月1日から29年9月30日までの間に適格請求書発行事業者の登録を受ければ、登録日から適格請求書発行事業者となることができる。登録日の属する課税期間の翌課税期間から登録日以後2年を経過する日の属する課税期間までは事業者免税点制度を適用しない。
仕入れ明細書等による仕入れ税額控除は他の事業者の課税資産の譲渡等に該当する場合に限る。適格請求書発行事業者以外の者からの仕入れについて、区分記載請求書の記載事項に関わる電磁的記録があれば税額控除に関する経過措置の適用を受けることができる。
航空機燃料税は特例措置を1年延長する。税率は1キロリットルあたり1万3000円に引き上げる。沖縄路線航空機に積み込まれる燃料の燃料税は1キロリットルあたり6500円とする。
沖縄県産酒類に関する酒税の軽減措置は、以下の見直しをしたうえで延長後の適用期限の到来をもって廃止する。単式蒸留焼酎の酒税の軽減措置は段階的に縮小し、32年5月14日まで延長したうえで廃止する。それ以外の酒類は、軽減割合を23年10月1日以降は15%とし、適用期限を26年9月30日まで延長したうえで廃止する。
国際課税
過大支払利子税制については、恒久的施設(PE)を持つ外国法人のPE帰属所得以外の国内源泉所得と、PEを持たない外国法人の国内源泉所得の金額についても適用する。地方税もこれに準じる所要の措置を講じる。
これについては、市場国に新たな課税権を配分する制度の詳細化に向けた国際的な議論に積極的に貢献し、国際合意に則った法制度の整備を進めるとしている背景だ。
納税環境整備
領収書の電子保存義務化が猶予される運びとなった。これは電子取引の取引情報の電子保存制度について、22年1月1日から23年12月31日までの間に行う電子取引で、制度の保存要件に従った電子保存ができない事についてやむを得ない事情があると税務署長が認める場合などは、保存要件にかかわらず保存をできるようにする経過措置を講じるものである。この経過措置は22年1月1日以後の電子取引の取引情報に適用する。
税理士制度の見直しに関しても明記された。税理士および税理士法人は業務電子化を通じ、納税義務者の利便向上および業務改善を図るよう努める旨の規定を設ける。税理士会および日本税理士会連合会の会則に記載すべき事項に、税理士業務の電子化の規定を加え、この規定を変更するときは財務相の認可を受けることにするとされた。
税理士だった者が、税理士として活動した期間内に懲戒処分の対象となる行為または事実があると認められたときは、財務相はその者が懲戒処分を受けるべきだったと決定することができる制度を創設する。その決定については官報で公告される。
帳簿の提出がない場合等の過少申告加算税等の加重措置の整備も提示された。納税者が修正申告などをする前に税務署職員から帳簿の提出を求められ、帳簿を提示・提出しなかった場合や売上金額や収入金額の記載が著しく不十分だった場合、通常の過少申告加算税または無申告加算税の額に、申告漏れに関する税の10%相当額を加算した額とする。これは、24年1月1日以後に申告期限が来る国税について適用する。
財産債務調書制度等の見直しについては、その年の12月31日に有する財産の価額の合計額が10億円以上の居住者を提出義務者とし、23年分以後の財産債務調書について適用する。そして提出期限は翌年の6月30日(現行は3月15日)とする。財産債務調書の記載を省略できる「その他の動産の区分に該当する家庭用動産」の取得価額の基準を300万円未満に引き上げる。
地方税務手続きのデジタル化に関しては、利便性が高まることになる。納税者等が地方公共団体に対して行う全ての申告・申請等を、全てeLTAXを通じてできるようにする。22年4月1日に施行し、実務的な準備が整ったものから順次対応する。
以上のとおり、骨子を列挙したが、別途、今回の大綱での見送り事項は掲載予定であるが、やはり、既存の制度の修正に留まったものであり小粒な税制改正となっている。いずれにしても、改正点を十二分に理解するためにも疑問点や相談事項があった際は、当法人にお問い合わせください。