「帳簿」「請求書」「領収証」、結局は何年保存?
目次
「帳簿や領収証とかは、何年くらい保存すればいいですか?」…という質問をよく受けます。 よく受ける質問ですが、税理士によってまちまちの回答が返ってくることもある問いかけです。 なぜなら、法律が一つではなく、会社独自の経営判断や税務上の判断も関わってくるからです。 今回は、単純そうで意外と複雑な『帳簿、請求書等の保存』について解説します。 ※法人(法人は99%が青色申告なので「青色申告法人」)を前提のご説明です。
1 税法上の保存期間(法人の場合)
【結論】税法上の帳簿書類の保存期間 … 通常 7年間 例外 10年間(欠損事業年度) 「法人税法」や「消費税法」、その他の規定を見ていきます。
1. 法人税法上の規定
<【法人税法】帳簿書類の保存期間>
欠損金の生じていない事業年度は、7年保存 (帳簿書類の整理保存) 第五十九条 ⻘色申告法人は、次に掲げる帳簿書類を整理し、起算日から七年間、これを納税地(カッコ内略)に保存しなければならない。 一 第五十四条(取引に関する帳簿及び記載事項)に規定する帳簿並びに当該⻘色申告法人の資産、負債及び資本に影響を及ぼす一切の取引に関して作成されたその他の帳簿 二 棚卸表、貸借対照表及び損益計算書並びに決算に関して作成されたその他の書類 三 取引に関して、相手方から受け取った注文書、契約書、送り状、領収書、見積書その他これらに準ずる書類及び自己の作成したこれらの書類でその写しのあるものはその写し 2 前項に規定する起算日とは、帳簿についてはその閉鎖の日の属する事業年度終了の日の翌日から二月(カッコ内略)を経過した日をいい、書類についてはその作成又は受領の日の属する事業年度終了の日の翌日から二月を経過した日をいう。 3 以下、省略
「帳簿書類」とは?
…「国税関係帳簿」と「国税関係書類」のことです。
「国税関係帳簿」の例
…仕訳帳、総勘定元帳、固定資産台帳、現金出納帳、得意先元帳、売上帳、仕入帳など
「国税関係書類」の例
…棚卸表、貸借対照表、損益計算書、注文書、契約書、領収証など 法人税法施行規則第59条では、「帳簿書類」を原則として法定申告期限(決算日から2か月後)から7年間は保存しなければならないと定めています。この保存義務は、税務調査等で帳簿書類を検査する機会に備えた、納税者側の義務となります。
<【法人税法】帳簿書類の保存期間>
欠損金の生じた事業年度は10年保存 (⻘色申告書を提出した事業年度の欠損金に係る帳簿書類の保存) 第二十六条の三 法第五十七条第一項(⻘色申告書を提出した事業年度の欠損金の繰越し)の規定の適用を受けようとする内国法人は、同項の欠損金額が生じた事業年度の第五十九条第一項各号(帳簿書類の整理保存)に掲げる帳簿書類(カッコ内略)を整理し、第五十九条第二項に規定する起算日から十年間、これを納税地(カッコ内略)に保存しなければならない。 2 以下、省略
法人税法施行規則第 26 条の3では、欠損金の生じた事業年度の帳簿書類を 10 年間保存しなければならないと定めています。これは、「欠損金の繰越控除」規定により、10 年前に生じた欠損金と当期の所得とを通算することで、欠損事業年度の帳簿書類は 10 年後まで問題となる可能性があることから、それに備えた保存義務となっています。 ※平成 30 年 4 月 1 日前に開始した事業年度の保存期間は9年間でしたが、税制改正に伴い平成 30 年 4月 1 日以後開始事業年度からは変更されました。
<【法人税法】帳簿書類の保存をしていなかったときの不利益>
保存状況の不備があまりにも大きいとき、税務署側の判断(青色申告法人にふさわしいかの総合的判断)により、青色申告承認の取消しの可能性があります。 青色申告は、優良な帳簿記録を行う納税者に対し、節税要素を多く含む特典を認めている制度です。青色申告法人が取り消されれば現実的に様々な節税につながる制度が利用できず、不利益が生じる可能性があります。
2. 消費税法上での規定
<【消費税法】帳簿・請求書等の保存>
保存しないと仕入税額控除が認められない (仕入れに係る消費税額の控除) 第三十条 事業者(カッコ内略)が、国内において行う課税仕入れ(カッコ内略)若しくは特定課税仕入れ 又は保税地域から引き取る課税貨物については、次の各号に掲げる場合の区分に応じ当該各号に定める日の 属する課税期間の第四十五条第一項第二号に掲げる課税標準額に対する消費税額(カッコ内略)から、当該 課税期間中に国内において行った課税仕入れに係る消費税額(カッコ内略)、当該課税期間中に国内において 行った特定課税仕入れに係る消費税額(カッコ内略)及び当該課税期間における保税地域からの引取りに係 る課税貨物(カッコ内略)につき課された又は課されるべき消費税額(カッコ内略)の合計額を控除する。
……中略……
7 第一項の規定は、事業者が当該課税期間の課税仕入れ等の税額の控除に係る帳簿及び請求書等(カッコ 内略)を保存しない場合には、当該保存がない課税仕入れ、特定課税仕入れ又は課税貨物に係る課税仕入れ 等の税額については、適用しない。ただし、災害その他やむを得ない事情により、当該保存をすることがで きなかつたことを当該事業者において証明した場合は、この限りでない。
<【消費税法】帳簿・請求書等の保存義務>
「帳簿」は法人税法での国税関係帳簿を差します。 「請求書等」は請求書・納品書・その他類似書類で、書類作成者の氏名名称・年月日・資産又は役務の内容・対価の額・書類の交付を受ける事業者の氏名名称が記載されたものをいいます。 従って、消費税法は、法人税法での「帳簿書類」よりも少し狭い範囲を対象としています。
<【消費税法】保存の例外>
消費税法での保存義務は、原則としてすべての取引に関する帳簿及び請求書等とされています。 ただし、以下の例外があります。 税込3万円未満の取引については法定事項が記載された帳簿の保存があれば認められる(電子帳簿保存法改正により改正される予定)。 請求書等の交付を受けなかったことにつき、やむを得ない理由があるときは、帳簿にその理由、相手方の住所等を記載すれば認められる。 金又は白金の課税仕入を行った場合は、相手方の本人確認書類の保存も必要。
<【消費税法】保存期間は?>
保存期間については、法人税法での7年間と同様となりますが、6年目・7年目については帳簿または請求書等のいずれか一方のみ保存すればよいとされています。
<【消費税法】帳簿・請求書等を保存しなかった場合の不利益>
消費税の納税義務者のうち「本則課税方式」が適用される事業者は、大まかに言うと、収入について預かった消費税から支出(経費等)に付随して支払った消費税を控除(「仕入税額控除」といいます)する流れで納税額を算出します。仕入税額控除は、納税額を少なくできる控除なので、税務調査の際には、適正な処理をしているか着目されます。このとき、帳簿と請求書等の保存がない場合には、その内容を詳細に検査できなくなることから、その保存がない場合は仕入税額控除を認めないとされているのです。 税務調査時に帳簿及び請求書等の保存がない事実が判明しただけで、その経費等の10%相当の仕入税額控除の否認につながりかねず、かなりの不利益となります。(災害等によりどうしても保存できなかった場合は除く)
<実務上の対応>
法人税法での7年保存を基本に、欠損事業年度の帳簿書類は10年間の保存と考えて、顧問税理士と相談の上検討しましょう。その際には、消費税法での独自の保存要件にも留意が必要です。 また、帳簿書類の保存は、税務調査のためと言っても過言ではないため、直近で税務調査が終わっている事業年度については、顧問税理士とご相談のうえ、対応(保存しない)を検討してよろしいかと思います。
2 会社法上の保存期間
【結論】 会社法の会計帳簿等の保存期間 … 10年間
「会社法」は、ざっくり言うと、株主や債権者(銀行など)の権利保護をメインに、利害関係者との調整をはかる目的で定められた、会社設立・組織・運営・管理に関する基本ルールです。 税法では、「帳簿書類」という用語が出てきましたが、会社法では「会計帳簿」という用語が出てきます。
<会社法での「会計帳簿等」の保存義務>
「会計帳簿」とは? …総勘定元帳、仕訳帳、現金出納帳、預金出納帳、経費帳、固定資産台帳、補助簿(売掛金元帳、仕入先元帳など)のことです。 「その他事業に関する重要な資料」とは? …契約書、領収証、請求書、納品書、伝票などの証憑書類を差します。
<会社法ではなぜ会計帳簿の保存が必要?>
議決権3%以上を保有する株主は、権利行使や調査目的で、会計帳簿閲覧請求権を行使できます(会社法第433条)また、裁判所は、訴訟の際に会計帳簿の提出命令を行使することがあります(会社法第434条) このような機会を確保するため、会計帳簿の保存義務があるのです。
<会社法での「会計帳簿等」の保存義務>
(会計帳簿の作成及び保存) 第四百三十二条 株式会社は、法務省令で定めるところにより、適時に、正確な会計帳簿を作 成しなければならない。 2 株式会社は、会計帳簿の閉鎖の時から十年間、その会計帳簿及びその事業に関する重要な 資料を保存しなければならない。
「会計帳簿」とは?
総勘定元帳、仕訳帳、現金出納帳、預金出納帳、経費帳、固定資産台帳、補助簿(売掛金元帳、仕入先元帳など)のことです。
「その他事業に関する重要な資料」とは?
契約書、領収証、請求書、納品書、伝票などの証憑書類を差します。
<会社法ではなぜ会計帳簿の保存が必要?>
議決権 3%以上を保有する株主は、権利行使や調査目的で、会計帳簿閲覧請求権を行使できます(会社法 第 433 条)また、裁判所は、訴訟の際に会計帳簿の提出命令を行使することがあります(会社法第 434 条) このような機会を確保するため、会計帳簿の保存義務があるのです。
<会社法での「計算書類等」の保存義務>
(計算書類等の作成及び保存) 第四百三十五条 株式会社は、法務省令で定めるところにより、その成立の日における貸借対 照表を作成しなければならない。 2 株式会社は、法務省令で定めるところにより、各事業年度に係る計算書類(カッコ内省略) 及び事業報告並びにこれらの附属明細書を作成しなければならない。 3 計算書類及び事業報告並びにこれらの附属明細書は、電磁的記録をもって作成することが できる。 4 株式会社は、計算書類を作成した時から十年間、当該計算書類及びその附属明細書を保存 しなければならない。
「計算書類等」とは?
「会計帳簿等」をベースに作成された、貸借対照表、損益計算書、株主資本等変動計算書、個別注記表のことを差します。これらも「会計帳簿等」と同様に、10 年間の保存義務があります。 また、計算書類等は、一定期間本店・支店に備置く義務(会社法第 442 条第1項)、株主や債権者の閲覧請求権(会社法第 442 条第3項)があります。
<なぜ税法と異なる保存期間が定められているの?>
税法上の「帳簿書類」と、会社法上の「会計帳簿等」「計算書類等」は、大部分が重なる書類を差しています。では、なぜ同じ書類の保存期間が、法律によって異なる保存期間となっているのでしょうか? その理由は、会社法は税法とは別の目的で定められた法律だからです。税法は主に納税者(会社)に適正納税をさせる目的で作られた法律であるのに対し、会社法は主に会社と株主・債権者との利害調整を目的として作られた法律です。そもそもの目的が異なるため、同じような書類に対し、独自の立場から異なる定めが置かれてしまっているのです。
<実務上の対応>
税法より⻑い保存期間が定められている会社法ですが、上記のようなケースに備え、適正に会計帳簿等を保存することは会社の重要な義務と言えます。 しかし、100%オーナー企業の場合、現実的にはこれらのリスクに備えずとも不利益が生じないとも考えられます。なぜなら、会社法での罰則規定は限られたケース(特別背任罪、虚偽文書行使等の不正、贈収賄罪)であり、会計帳簿等の保存義務に違反したからと言って、罰則につながる可能性は小さいからです。 小規模企業にとって、会計帳簿等を保存するコストも馬鹿になりませんから、経営者によっては、経営判断の結果として会社法ではなく税法を中心に考えるという会社も多いと思います。 ただし、現時点で 100%オーナー企業であっても、将来 M&A などで人の手に渡る可能性、外部株主が参加する可能性もあります。将来的なリスクまで視野に入れて、何年間の保存が妥当か検討しましょう。
3 まとめ
<まずは税理士にご相談>
税務上と会社法上の両面から保存期間を検討し、どの書類をいつまで保存するか判断しましょう。 まずは、税務上の保存期間に対してどのように対応するかは顧問税理士に必ずご相談ください。 会社法は税務上よりも⻑い保存期間となっていますが、保存しないことのリスクと、保存コストを天秤にかけて、あえて保存しないという選択肢を検討するのもよいでしょう。
<保存方法>
なお、書類の保存方法は、基本的には書面のままで会社の本店所在地等において保存となりますが、書面ではなく、電子帳簿やスキャナ保存をすることも可能です。 ただし、電子帳簿保存やスキャナ保存の場合、税務上の要件にしたがった保存でないと、保存をしているつもりでも、税務調査の際に違法と判断され保存がないとされてしまいます。ご注意ください。 なお、電子取引で授受する取引データ(メール添付やクラウド経由で送受信された請求書、契約書、見積書などや、ネット経由でダウンロードした取引記録や領収証など)は、PDF 等の電子データでそのまま保存することが義務となります(2022 年 1 月以降)。これらは書類に印刷したものを保存していても、適法とはなりませんのでご注意ください。
<半永久保存とすべき書類>
これまで、法律上の保存義務についてみてきましたが、保存義務がなくても半永久的に保存しておいた方が無難という書類があります。 決算申告書、定款、官公庁への届出書控え、登記関係資料、不動産関係資料、株主名簿、その他重要な契約書は、将来参考資料として必要になる場面が大いに考えられます。これらは極力捨てずに、半永久的に保存(書面保存でも、スキャンして電子データ保存でも)しておくことをお勧めします。
注意する点としては「書面」と「電子データ」で保存するときにはそれぞれ決まりがありますので、電子データの保存方法について詳しく知りたい方は電子取引データの保存方法の記事をご覧ください。
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